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■アルゴリズム造形(Algorithmic Art)について

 

 ITの普及によって造形デザインのプロセスが根本的に変わったとは思えない.しかし,数理科学,形の科学,情報科学,脳科学といった学問の進歩は,デザイン発想の手法を語る上で有効な概念を提示してきた. ここで述べるアルゴリズム造形とは,芸術と科学を巡る造形プロセスの客観的記述の探求であり,マックス・ベンゼ著,草深幸司訳『情報美学』勁草書房 1997 に見られるように,客観性をもつ分析美学の視点を発展させ,自然科学的形成プロセスを織り込みながら,現在も発展を続けている.CG技術の向上に伴い,自由に創作性を加えたアルゴリズムによる調整も加わり,新しい造形構成が着実に育まれているのだ.その入力データとプログラムは,出力データと共に,そのプロセスを客観的に記録しながら発展している.アルゴリズミックアート(algorithmic Art,コンピュータの出現に伴って次々と生まれ,現在に至る),プロセッシング(Processing,ボストンの工科系大学MITでJAVAから開発された),ジェネレーティブアート(Generative Art),アルゴリズミック アーキテクチャー(Algorithmic Architecture),アルゴリズムデザインなどの呼び名があり,最新の造形技術との連携を深めながら,映像,プロダクトデザイン,建築デザイン,都市設計へと発展している.これらは,科学シミュレーションの手法と従来の造形デザイン的プロセスのアルゴリズムの連携により,さらに創発性のあるデザインシステムへと発展するだろう.

  アルゴリズムと言えば計算手順を意味し,いかにも科学的な根拠に基づいた計算を行っているように聞こえるかもしれない.コンピュータプログラムによる造形は,私としては,アッケラカンとした根拠無き論理性が視覚化され,言葉遊びのような開放的展開の楽しさを生み出すことで,新たな精神のよりどころが生まれるように思えてならない.あえて私見を言えば,これこそ気取りのない,素直で,大まじめで,遊び心いっぱいの造形デザインなのだ.残念なことに,1960年代ごろから始まったアルゴリズミック・アートや情報芸術の流れは,コンピュータやデバイスの性能が人間のイメージに追いつかず,その可能性は理解されなかったようだ.しかし,造形デザインを教えるに当たって,これらのプロセスは実に明解で,展開的活力を伴った手法である.抽象という意味合いさえを理解できれば,その構成からイメージが自由に広がり,造形発想ツールとしても十分機能できるのである. そこで重要となるのが,構成と実制作(パフォーマンス)を分ける造形譜のような中間表現なのである.これを確立しないと,アルゴリズムを使ったアートは一部のマニヤックな人々の遊びとなり,その表象を皆で楽しめるような一般的普及は困難であろう.

  日本ではいまや「アルゴリズム体操」の認知度のほうが圧倒的である.それに習って言えば,やはり「アルゴリズム造形(Algorithmic Art)」となる.「アルゴリズミック・フォーミング」というと機械加工的であるし,「アルゴリズミック・コンポジション」と言いたいが,すでに音楽系で使われ,混同されがちだ.「アルゴリズミック・デザイン」でもよいのだが,「デザイン」という言葉ををあまり狭義な意味にしたくない.「ZOKEI」や「ARS(ArtとScienceが不可分なころの概念)」なども妥当だが,アルゴリズムという言葉に記号的抽象性やプロセスの意味が含まれるので,それにアートを加えると造形デザイン的なニュアンスが保てるので総称としては都合がよい.造形デザインはコンピュータのない時代からすでに「アルゴリズミック・アート」であったのだ.他に世界に通じる良いネーミングはないものであろうか?もちろん アルゴリズム造形(Algorithmic Art)では,遊びを逸脱する真面目な科学性や技術的に高度な計算などとも情報交換が可能である. プログラム言語を使った造形プロセスの記述が展開させる不思議で面白い結末がアルゴリズム造形(Algorithmic Art)であり,離散的なアルゴリズムで,もっともらしい理屈を付けたがるのもわかるが.詩的な表象を生むプロセスも芸術的で捨てがたい.まさに思いを形にするプロセスの追求がアルゴリズム造形(Algorithmic Art)なのである.この明解なプロセスにようる構成力は捨てがたいのだが,その構成への解釈はもっと多様であるべきだ.

 アルゴリズム造形(Algorithmic Art)は,美術における造形教育を支援する演習プログラムとしても,即座に可視化でき,楽しく試行錯誤を繰り返せるコンセプチュアルなプロセス デザイン ツールとして,順次普及していくだろう.  「アルゴリズム造形」については,「CG入門」河口洋一郎監修,丸善刊,2003  の拙著,第五章:「情報デザイン」 にモデュール概念の実例を挙げながら概要を記してある.(アルゴリズム造形/数/分割/対応/比例/比例のモデュール/形のモデュール/律動と均衡のモデュール 1~2/アルゴリズミック・アート/デッサンとしてのシミュレーション等).なお「情報デザイン」は,かなり広義な意味合いであるが,ここではCGに限定した内容としている.

 前述の形典の基礎概念でもお解りのとおり,学問の基礎とは難解で実は底無しともいえる.それを難解とせずに面白いと思えば遊び心が目覚め,自由になってくる.いま一度,遊びの逸脱という分かれ道を俯瞰することで,自然科学の魔力からも解放されてみたいと思うのは,私だけではあるまい.その為にはもっと丁寧な解説と,具体的事例を挙げて,アルゴリズムを解き明かしていくことも必要である. しかし,そこまで深入りすることを期待すると,視野が狭まってしまう危険もある.したがって,音楽のようにコンポーザーとパフォーマーが別れて鍛錬することができればよいのである.

 

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