Ken Ishigaki : 石垣 健
COMPOSERについて
 COMPOSERは 私自身の空間構成のプロセスを意識的にとらえ、プログラム言語によって記述し、繰り返し再構成、再構築をしてきたシステムです。 大げさな言い方をすれば、人間と言語(対応表現)と機械(相似的表現行為)のコラボレイションをいかに美しくするかが、テーマなのです。 


「かたちと対応表現」
   石垣 健
 一面の霧氷を見ている。眩いうねりは尾根のふくらみに添いながら、やがて青く谷に消えてゆく。よく見ると、枝先の途切れた暗がりから地面の温かみが伝わってくる。私は今、植物に咲いた鉱物の花を観ているのだ。繰り返された分裂と成長、分岐と抗争の記憶の先端は、一夜にして均一と対称の連なる華と化した。視覚では捉え得るべきもない視野いっぱいの結晶界 --------  読むだけで甦るこの記憶の世界に、形はどの様にひそんでいるのだろうか?霧氷から結晶までのズーミングは、連続した記憶か、それともリズミカルに構成された数枚のスチールか?無意識に甦る記憶の連なり、瞬時になされる属性の対比と調和、いつのまにかそれをささえる香り…。呼び戻される光景以上に、その背後のシステムは、遥かに壮大であるようだ。 現在、膨大な記憶容量を持ちつつあるコンピューターのプログラム言語に、配列変数というのがある。一つの変数名でいくつかの要素を参照することができる変数である。配列宣言とは、メモリー空間に配列の次元と各配列の要素の数を決める予約手続きで、自由にn次元の配列が記憶領域内で可能となっている。この視覚に惑わされない、多次元の同時性と周期性をもつ記憶概念は、自由な、有限な構想の場を成立させる。左記の図形は、つぎのような配列変数を想定して得られたものである。「構成配列変数」 設定した次元において、1に始まる連続自然数によりきわめて抽象的に構成された配列、したがって添字と変数との関係で生ずる、一対一対応、分割、順序の構成的差異だけを表す。「調整配列変数」 構成配列変数に対応するよう昇順にならんだ数列。全体と部分の比例を調整し、周期を設定する。「対応配列変数」 配列変数間の対応関係を設定したもの。たとえば、構成配列変数の値と調整配列変数の添字の関係を設定。 尚、これらの配列変数は、四則演算的に再生産できる。 ここでさらに、空間分割、要素、要因、属性等を配列変数化したものを、上記の配列変数に対応させ、人の手に代わる外部出力機器を操作して、様々な形態にアナロジカルな表現を生もうというわけである。そして、その表現と類似な形態との比較を行い、再帰的にその差異を含めるがごとく対応する配列群を書き改めるなら、始めに宣言した、空虚な配列も、有機的変化とバランスに富む、抽象に近づくかも知れない。 ------ 視覚では捉え得るべくもない結晶界と、やがて来る春の谷間に輝き走る流動界。たとえそれが同じ水であろうと、この光景の本質とは思えない。凍結と解凍の場こそ反エントロピーの母体ではあるまいか?

(形の文化誌[1] 形の文化会=編 1993 工作舎)


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