「貝と螺旋の秘密」

螺旋には
始めと終わりがあるのだろうか?
夢の螺旋.
その一端は限りなく繊細に集束し,
他端は,やがて果てなき宇宙へと帰還する.
それは,今
此方と彼方の他者を結び
我に巻き付く,
確かな
普遍的図像なのだ.



  ところでこの図像の持ち主,
貝殻の制作者が
紹介されることは,
ほとんどない.

貝の図鑑を見ても貝殻ばかりで,
その形態を造り上げた者の姿は見えない.
「貝の博物館」で
貝の肉体標本を展示する事は
希である.


 「貝」とは何であろう?
 動物は剥製にされれば,
まさにもぬけの殻であるが,
このもぬけの殻を,
実体であるがごとく表徴させるところが,
虚体のような貝の陽気さ,
明快なる神秘の才なのだ.

「どうしてこんなに綺麗なの?」
と観客は貝殻に魅入られる.
まるで死とは無縁のようなその存在に....

 とは言え,貝の生涯は過酷である.
真っ直ぐに成長するアンモナイトの子供は,
やがてそのアンバランスに耐えかねて巻き貝になる.
しかし,更なる成長がやがて多くの化石を残すのだ.
二枚貝はもっと激しく互いの螺旋を保障し,
やがて二身に別れる.

貝の時間は,
貝の蓄財そのものが
地に引かれて留まる.

 此方へと産卵すれども,
彼方へと至ることはないのである.

「貝」
それは
螺旋に住み
「今」
を塑像とする
天賦の彫刻家であり
一点より生じる螺旋を天空へと讃える

美の大法螺吹き なのだ.

2002.2.14
isi