デジタルアナロジー

もう面倒なのでこういう題にしてみました.

最近は,さすがに少なくなったが,
デジタル人間,アナログ人間などと,
人を区分けして見ようとするオッサンがよくいたものだ.
ちょっと昔なら「君は右派?左派?」などと言い出すたぐいと同じであるが,
デジタルアナログ論争はもっと始末が悪い.
血液型なら,4種はあるし,AB型なんて曖昧さもあって面白くもあるが
人間としてはありもしないデジタル,アナログのどちらかの範疇に人を押し込めようというのだから,
実は「おまえは俺にとって白か黒か?」と言っているようなもので,やっかいだ.
なんのことはない.「俺はアナログ人間だ.デジタル人間はダメだ!」と言うその判断こそが,
2進法でオマケに一桁.自分の非難するまさに二者択一的思考なのである.

初期の頃は,およそ融通のきかない硬直した考えの人間を,
デジタル人間と言っていたようにも思う,
「おれはファジーが好きだ.」なんて言う奴もでた.
ファージーセンサー導入の家電が売れなくなり,
どうやら「曖昧さ」にあやかる商売は,あまり効をを奏しないと解ってからは,
手のひらを返したように何故か言わなくなってしまった.

「いやコンピュータは2進法だ!だからだ結局白黒しか分からない.」
 こんな馬鹿なことは,もう誰も言わなくなった.
それでも「1650万色でも出せない色がある!」とつっかかったりする.
まあこういう人は,何を言っても是より非なのだから放っておく以外にない.
1650万色出せるようになったんだから喜べばよいのであって,実に不幸が好きな人なのだ.
もちろん表現できない色合いはあるだろう.濡れ羽色のカラスなんて,
目前で見ない限り,そのうっとりするような美しさは分からない.
その美しさに驚いている私に,カラスは誇らしげなのか,暫くじっとしていてくれた.
要は,人間のセンサーの方が今のところは市販ディスプレーよりは上位であると言うだけだ.
それにしても全身がディスプレーの我等生き物.表現を他の媒体に何故求めるようになったのだろうか?

べつに僕はデジタルに肩入れする気はない.そんなものを担いでも,どうと言うことはない.

幸いにしてこうして言語を使うことができ,
なんとか自分の考えを言葉にすることが出来るのは幸せというものだ.
言語活動は,パソコンなんぞ生まれ出る前から人間が持っていた情報処理能力の一つで,
もっともきっちりとデジタル化された伝達手法だ.
だからこそ文学は,デジタルな「活字」というシステムで,効率的に複製され,普及したのである.
漢字圏の文学が出遅れたのは,仕方のないことだ.
事の重大さにうろたえて,身を削いでしまった国家もある.
この表現体として分身の術を使えるようになった書物は,地上における増殖性を確保した.
人間のデジタルセンスの産業化である.

デジタルアナロジー

指折り数えるデジタルな行動を自然の中に見出すことは難しい.
葉先からしずくが落ちるのを下の葉が数えるわけも無い.
アナロジーな行為は,自然の中で視野一杯に行われている.
だがどうやってと問えば,その説明はやはり難しい.
形の科学を学ぶしかない.

細胞・分子・原子・素粒子へとそのデジタルな追求はアナロジーな現象へと迷い込んだ,
日常から見ると不可解な粒子性と波動性との併存.

意外にも命の複製において4種のデジタルな組み合わせが見つかり,
生命の科学は,やっと軌道に乗ったようだ.

粒子でも波動でもある.
デジタルでもアナログでもある.
記号から身体性,感性,果ては悟性まで.
そんな気持ちを「デジタルアナロジー」と言ってみたい.

平均率にしても,音楽家は巧みに分割と連続を扱ってきた.
それが証拠にコンピュータを,あっという間に音楽関係者は使いこなしてしまったのだ.
物に頼らず,事に専念せざるを得なかった故の,
素晴らしき跳躍である.
もちろん,それによって人間の創造性は,更に深く突き詰められることとなった.
アマデウスは,大声で笑っているだろう.

それに引き替え美術家はなんと不器用なのだろうか?
事を起こすはずが,物に引きずり回されている.
抽象絵画に物質性が付きまとう.
物が記号の真似をしたりで,
未だに楽譜的表現すら確立できない.
その情報処理能力の差はひどいものである.
消える音と消えない痕跡
これがイメージ力に決定的な格差を生んでしまった.

そして,なにより不幸なことに,自然の圧倒的な造形力があった.
音楽家のように,絵描きはその創造性を認められなかった.
自然の創造した物事を真似て描いたに過ぎなかったからだ.

そして,それに引き替え信じられぬほど貧しい地球の音の世界.
歌えるのは,鳥と人間ぐらいなのか?
この逆境は,人間のイメージ力を大いに育んだ.
そして,実態のない事を概念化して記述したのだ.
時間を分割し,現象に対応する記号として記したのである.

言葉と楽譜
ノートは,デジタルアナロジーそのものだ!


06.08.28
07.08.30

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