CAFETERIA    98.6

日本映像学会
第24回大会 

映像展示室の
アニメーション
より



1998年5月23
於:
宝塚造形芸術大学

企画: 吉 川 信 雄 ・ 制作: 石 垣 健 

感覚的構成力に,数理的構成力はなにを補足するか.

 造形表現において道具の更新は素材と共に,新たな創造の可能性を確実に支えてきた.現在、情報科学の発展及び情報処理技術の進歩は、デザインの一連の過程を急速に変えつつある.しかし,
その激変ゆえに個々のデザイナーにおいては,個々の創造性に対応したコンピユータシステムの構築がますます困難で、汎用ソフトを独自に使いこなすのがやっとなのである.

 近年の科学技術の驚異的進歩において,情報処理工学は重要かつ多大な役割を担ってきた.だが画像処理技術の着実な進歩と GUI(Graphical User Interface)の向上はコンピユーターを家庭電化製品のごとく普及させた反面,不断の更新と統合を重ねて進化し続けるコンピュー夕システムの構造や,プログラムのアルゴリズムを使用者にとってはますます疎遠なものとし,せっかく芽生えた情報処理という概念や,プログラム言語が日常を見直す新鮮な言葉の源泉として一般化する最初のチャンスを逸したしたようにも思われる.

 だが実は,このプログラムの構造やアルゴリズムこそ,感覚的構成力を観察し,記述し,再現する楽しき悪友であり,この連携した一連のシミュレーションに感性を触発する数理的構成モデルを見出すなら,射影幾何学が芸術に及ぼしたと同様,或いはそれ以上の,さまざまな新しい共生の作品を生む好機を秘めるものなのである.造形ノートとは,これら対応表現としてのデッサンを受容し,調整を重ね,造形的に再構成をしてデジタルファイル化したもの(造形譜)と共に,制作にあたっての所感を加えたものである.従ってこのノートは,様々なソフトで抽象的に再現でき,個々の解釈を加えplay (制作) 可能な楽譜的存在をめざしている.

                               石 垣  健  

    

VINYL PONCHO

 「もしも自己というものが,単に物語的重力の中心でしかなく,人間の意識のあらゆる現象が,人間の脳の天文学的なかたちでの調整さえ可能な結びつきを通して実現されるヴァーチャル・マシーンのただの活動でしかないと説明できるのだとしたら,シリコン・ベースのコンピユータを脳としてもったロボツトに正しいプログラムを入れてやれば,原理的には,そのロボットには意識もあれば自己もあることになるだろう」(ダニエル・C ・デネット)しかし,どのようにしてロボットが意識をもちうるのかは想像すらできない.ただ,自分の活動をコントロールする能力は,自然界の生物の活動からヒントを得ることができそうである.ホヤという貝は,自分に適した環境の,岩や珊瑚礁を求めて,終生海を漂い,適切な場所を見つけて根を張ると,脳はもう不要になるので,自分で食べてしまうという.ホヤにとっての脳とは.危険を察知したり,危険から回避するためのマシーンだったわけである.この単純な神経システムは,自然界の規則性を見事に感受しているといえよう.しかしその規則性と一言で言っても,まだまだ未知の部分が多い.例えば,たいていの動物は全体として左右に関して対称であるが,そうでない非対称の形態を持つものは,その機能に関してもどういった規則性に従っているのか,明確には解明できていない.北極海に棲む雄の一角獣の牙は2本あるが,その1本は口の中に隠れたままなのに,もう1本は体長の半分ほどの長さになるという.またらせん形に巻いてあるその巻き方が,山羊や羊の角のように一方が左で他方が右,といった巻き方ではなく両方とも左巻きになっている.山羊や羊の角の巻き方が自然界の規則性に基づいているのならば,当然,一角獣の角の巻き方も自然界の規則性に基づいているはずである.口の中に隠れている一本の角が証明しているように,見えない部分で地球の重力を支えているからである.

 人間の意識下の世界を数値によって表現しようと躍起になる前に,人間の意識そのものが自然界の規則性に則ったものであることを認識することがまず肝心であろう.そして,左,右,上,下,どちらの向きを選択しようが,そのコントロールの鍵は,地球の重力から発進されているのだ.造形のリズムはすでにそこから始まっている.私の造形ノートに縦横無尽に置かれた数値は,自然界の規則性を無意に感受した神経システムのもとに刻まれているはずである.

                                吉 川  信 雄 

    


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