造形ノート
過去の偉大な作品を忘れ,いつのまにか身近になった手法で簡単な実験を行う.すると意外な進展がみられることもある.様式の完成とは,繰り返し多くの人々が試みた故のことだ.「繰り返しを許すこと」,この飽くなき追求の持続が様式を完成に導く.文化とは更にその先の邂逅のことだ.現代建築は21世紀に成熟をあずけた.デザインと制作の絶え間ない反復は,自作自演の快挙を求めなくなる.プロセスの進化は,相互に参加可能な音楽的共演をめざしていく.とはいえ,住宅設計の一部は,カラオケやコンピュータゲームのようになるだろう.人生最大の買い物を楽しまない方はないのである.とことん,気の済むまでのバーチャルなスクラップ アンド ビルド を繰り返した後,完成したファイルが,お気に入りの施工スタッフに渡されるわけである.数千円のテレビゲームですら勝ち抜くために一ヶ月かける若者はざらである.ましてやこの数千万円の生涯をかけた建築ゲームに,何年かけても無駄ではない.勿論,建築ゲームアドバイザーやその著である攻略本も出るだろう.この不況下に空前のバーチャル建築ゲームはいかがだろう.「倍の広さに」等という質の伴わない誘いには,もう何の魅力もない.物がほしいだけではない.建築することは,その施主の人生なのだから. 1997 isi
|