■“CONCOMITANCES” 制作のアルスノート
造形譜(例えば素描や3Dデータ)からのレンダリングは楽しいが,「絵に描いた餅だ」と言われるのはなんとも忍びない.3D-CGは,CAD/CAMと連携すればそのデザインを具現化できるからだ.もちろんグラフィカルな表現の方が自由度は高い.絵画的表現形式の多様さは,歴史的に網羅されてきたし,アカデミズムが薄らぎ,受け手の自由な解釈が可能だからだ.立体造形は,彫刻も含めて物質的に極めて安定した素材(耐候性の石や金属)へと置換した表現(記録=外在する記憶)であり,机上で終わる作業ではない.今流に言えば,作品(記憶メディア自体)が光という電磁波を受けて眼差しと直に交信できる状態を創成していることになる.そして,今一度絵画についてこの観点で言えば,平面表現も同様に眼差しと直接交信できる記憶配列であり,高解像度ディスプレイ以上に詳細な解像度の絵の具(電磁波を直接共振反射させる記憶素子)の安定性を使ってそれらを多層に塗り重ねながら作家内面のイメージを表現しようという試みとも言える.絵画は,そこに更に錯覚や視覚認識の多さを逆手にとるようなテクニックが織り込まれるのであるから,美術史から見れば,ここ半世紀のCGやCADの進歩とは未だ未だ取るに足らない出来事と言われてもしかたない.
理屈はさておき,造形譜からの実制作を行ってみよう.次の造形譜からのCGを見るだけで,デッサン力のある人は,実制作できるかもしれない.
♦concom01.mp4 3.88MB
しかし,私にはそんな才能や技量も無い.せいぜい,できあがりのイメージの足しになる程度である.造形譜からの実制作の補助としては,昨今立体プリンターが次々と登場し,その精度も上がってきた.やがて家庭のプリンター並になり,黙々とモデリング作業をしてくれるのだろうが,まだFDMでも性能の割には高価である.樹脂の収縮変形もあり,気をつけて見ていないと失敗も多々ある.不器用な手元だと思えば可愛らしくもあるが,3D-プリンターの開発者にとっては未だ未だ激戦区のようだ.
今回使用した3Dプリンターは0.1mm程度の精度があり,実と幹のようなジョイント部分はドリル刃で簡単に仕上がった.構造設計を含めCAD/CAMの連携は,DTP同様に良くも悪くも仕事の囲い込みを解放していく.かたやコンビニ化の行き着くところはどこなのだろう?身の丈の欲望は,どこまで知能集約的なシステムを望むのだろうか?右肩を下げ,しばし慣性の続く間での見直しが必要なのだ.
ほぼ連続で一ヶ月程プリントにかかった.できあがったABS樹脂原型の仕上げは,手なりに削り上げる.ここは機械に任せるわけにはいかない.造形譜におけ表記の曖昧さこそが,構成者(composer)が解釈の自由を許容した表現であり,作り手(実制作者:performer)の感性と技量の見せどころともなる.写真↑のように乱雑に置くと一体の作品としてまとまるのか不安になる.今は書き上げた造形譜を信じるほか無い.
このような機械化で,プロの世界でも木型屋さんやモデラーの雇用が減っていく.DTP同様に立体造形も手業不要なデザインとなっていくのだろうか?残念でもある.昔は,印刷用版下でのロポーショナルは,カッターナイフで等幅のフォントの社食?(笑)写植を切り貼りしたものだ.今から考えれば大変な作業と労賃である.洗濯機同様に,この辺の自動化は,やはりありがたい.
人は,誰でも靴紐が結べるほど器用な手業を持っている.これを楽しまない生活はつまらないではないか.録音技術を程よく使ったカラオケのごとく,誰もが参加でき,手業を楽しめるようになるはずである.一度作ったものは,すぐには消えない.焦らず生涯を掛けて作れば良いのだ.人の手助けは良いが,人の楽しみまで奪ってはいけない.造形譜の普及が,人のロボット化ではなく,やりがいのある仕事をきめ細やかに生むことを期待したい.
千年も万年もかかる計算を,皆が気にもせず手の平の板に指先を当てるだけで指示している?70年ほど毎日見てきたが,科学と技術の連鎖によって,確かにこの惑星の人々の夢はすでに異常すら逸脱しているようだ.(笑)
さて,次に困難な仕事は,枝状にクネクネと曲がりながら分岐する幹のような部分だ.こんな難易度の高い“造形譜”なんて作らなきゃ良かった…と思いつつも,技術革新への期待もあって記譜しておいた.レンダリング(描画)テクニックを学ぶにはもってこいの曲面であるが,今ではオープンソフトで誰でもきるだろう.だが実制作は,未だ未だある程度の工芸的技量が無いと難しい.たとえ自作でも法外なコストを掛けるのは悪趣味だ.何年も前から作ろうと思っては,「もう少し待とう.きっと時代が追いつく」と思ってサボってきたのだ.幸にも3Dプリンター普及の時代がやってきた.是で果実の様な形状はなんとか制作できた.だが金属素材の3Dプリントは,まだ大きさが限られ,高価であり,収縮や剛性の見極めが難しい.パイプベンダーには細すぎるだろうしデータ処理のコストがかさみそうだ.そこで,造形譜を図面化(三面図化)して,手で曲げ,TIG溶接することにした.(下方の写真)
試みに幹部分を2本も曲げたので,肩と胸がパンパンだ.(服部さん,北海さん,手早い材料調達をありがとうございました.)
腕力勝負が終わり,さてこれからTIG溶接です.
先ず,丸棒を三次曲線の長さを測って切断.各交点の形状に合わせてすり合わせなければならない.大きいモノならば,造形譜のデジタルデータからCAD/CAMで行うことになるが,今回は勘を頼りにヤスリで摺り合わせる.是は根気がいる仕事だ.いやだと思えばつらい作業,手際よくできればちょっとした快感もある.溶接も同様だ.無理して独りでやることもないし,大勢で作るほどのことでもない.
■ だいぶ間が開いてしまいましたが,途中経過の続きです.
参考のため10分の1の全体モデルをプリントしました.↑
■ 個展を終え一週間.はや五月.連休前の忙しい最中に会場にお越し頂いた方に感謝しつつ,また,お越し頂けなかった方への報告を兼ねて,完成作品の展示された会場の写真を掲載いたします.
なんとか個展を開けたので,今ここに書かせて頂きますが,実は私は昨年の暮れに赤信号で止まっていたところを追突され気を失うという被害事故に遭い,鞭打ち症になってしまったからです.今回の作業は,苦闘の連続でした.
警察も最大手の保険会社間でも私が0パーセント,相手が100パーセントとだと言葉では言うのですが,保険会社はモノコックのボディーの外形だけを切り貼りして直すと主張し,一ヶ月で代車を引き上げました.ディーラーは,安全のためには100万払って新車にするしかないと?警察は,「あとは民事ですから」と知らぬ顔. 生まれて初めての事故,自動車保険がこんなにひどい対応とは知りませんでした.これでは,赤信号で止まる方が悪いことになる.被害者の私が100万円払い,加害者は,保険で新車となるのです!加害者はこの現状を知っているのでしょうか?知っているなら更なる犯罪です.
事故直後は,頸の激痛と両腕の痺れのため,肋骨の骨折に気付きませんでした.救急車で搬送された保谷厚生病院では,頸のレントゲンしか撮らず,なんと「日曜のため専門医が居ないので…」と言われて頸にコルセット?をはめられ追い出されました.その後,作品制作の作業が中断し,溶接外注のための仮止めすらできない.この実制作過程掲載のHPも,PCのディスプレイに向かうのが辛く,やむなく休止.展覧会の案内状も,開催可能かどうか判断が付かず出すのを控えた次第です. 事故から3ヶ月,3箇所目の病院で骨折が判明し,リハビリのおかげで私の体は自己回復しつつありますが,不憫にも愛車は放置されたままで,もの作りの人間としては心痛む情況です.
加害者側の保険会社の担当は,まるで賭博の胴元のようです.いえいえ,人情のかけらも無いのですから経営者の搾取装置と化しているのでしょう.私の方の保険会社も,もし私が同じような事故を起こせば被害者に同じような対応をするのでしょうか?「無制限の保障」の為の掛け金とは,どうやら名ばかりのようです.これではまるで保険金詐欺です.恐らく追突した加害者は,この事実を知らされていないのでしょうから.
さて,愚痴はこの辺にして,アルスノート展の会場の写真です.
ポラーノ 32 (LED照明) 2016 Photo by H.
多角形状のジョイントをもつ花びらのような
ユニット「ポラーノ」による
シャンデリア状のLED照明.
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ポラーノ 32 2016 CDSにて撮影
三角の基準ユニット(大小5種)でデルタ多面体(>>Wiki)を構成している.
構成用ジョイントについて
“CONCOMITANCES” 2016 背景は造形譜からの三面図
“CONCOMITANCES” 2016
“CONCOMITANCES” 2016
“CONCOMITANCES” 2016
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無題 (ROW & FLOW) 2005
http://www.arsnote.com/ars/cafe2.html
http://arsnote.com/member/RASEreport.html
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