アルスノート
ZONE II 1987
無重力用 "階梯"
イメージ
人は飽きっぽいくせに,便利で一般的な基準にたよりがちだ.そこで,多面体のもつ方向性を基準とした新しい定規と物差しを作ってみた.これを使うと一見複雑に見える結晶の空間構成が身近なものとなった.変化にリズムが加われば意外性に溢れ,日常の直交軸系の空間が少々物足りなく思えてくるほどだ.3軸を6軸に分解したとも言えるが,そのうちの2軸は水平と垂直に合わせ,環境との接合を図った.
構成と構法
ここはぐっと感情を抑え,ミニマムな構成としよう.これは,造形譜と言うよりも,もっと抽象的な構成譜(造形形式のモデル)とでもいうべきものである.ただし,結晶学ならば,極端に抽象的な正四面体で説明が終わるところだが,美術の世界では,それを演繹的に自由な展開として統合しなければ,その抽象の価値が創発されない.造形の世界が自然科学と出会うと,とても楽しい展開ができることが眼に見えれば,この作品の問題提起は十分なのだ.多面体はいろいろある.その抽象的把握は,このような作品を包含しているのだから美しい.だが,正確な正四面体は,見ていて妙に寂しい?ここにこそ,自然科学に対する窮屈な観念があるのかもしれない.それは,算数なら数えることを知って,計算を知らないようなことだ.つまり,帰納的帰結による結果だけを見て,抽象の演繹的活力を見ようとしなわけである.抽象の価値は,普遍性と共に,多様で自由な解釈にもある.
具体的で豊かな多様性を保つ自然を謙虚に抽象してこそ,科学の信頼性が保たれるのであろう.自然の原理・原則や起原を知ることは,歴史を知ることと同様で,その歴史の只中にある己を位置付ける構文的解釈に過ぎない.だがその演繹性を現実をとおして行動的に確かめるとき,自然はこちらの態度を冷徹に見抜いてくる.それが行動することのリスクでもあり,楽しみでもあるのだ.芸術は,その自然の眼差しを見過ごすことは無いだろう.